四 白濁の匣(はこ)



 うららかな秋の日が、黒いアスファルトの路面にやわらかく溜まっている。
 ここは、いわゆる「閑静な住宅街」というやつだ。大きな家、小さな家、新しい家、古い家、三角屋根の家、平屋建ての家。色々な家が建ち並んでいる。雨水の流れた跡が壁に黒い染みになって付いている古い安アパートもある。公園もある。
 そんな住宅街の一角に、吉川家はあった。
 制服の少女が乗ってきた自転車が、その吉川家の前で止まる。学校から帰ってきた操だ。
 いつものように一旦降りて門の引き戸を開けようとして、操は珍妙なものを見付けた。
 引き戸に貼紙がしてあったのだ。
 貼紙の内容は極めて簡潔なものだった。毛筆の馬鹿でかい字で


   来い


 そして下の隅の方に、


   碇ゲンドウ


 とある。
 碇ゲンドウなる人物に心当たりはないが、こんなことをやりそうな人間なら一人だけ心当たりがある。
 貼紙をひっぺがした操が、自転車と一緒に門の向こうに引っ込んだ。
 しばらくして、私服に着替えた操が出てきた。碇ゲンドウ氏(自称)の自宅……すなわちTSLまでは歩いて五分ほど。
 理英は自室にいなかった。守衛所で聞いた時は「部屋にいる」という返事だったのだが。
 代わりに操を迎えたのは、またしても貼紙だった。
『操へ 第二十二実験室に来てね 理英』
 簡単な図が描いてあり、第二十二実験室の位置が示してある。
 何だろ? 急ぎの用ならケータイで呼べばいいのに。初めて通る廊下を歩きながら、操は疑問に思った。
 結構遠いな、と思い始めた頃、操は「第二十二実験室」と表示された部屋を見付けた。ドアをノックしてみたが、返事はない。当然中に理英がいるものと思っていたから、声を掛けてみる。
「理英ちゃん、いるの? いないの? いないんなら『いない』って言って」
 ムチャ言うな。
 やはり返事はない。操は部屋に入ってみた。中は二つの部屋に分かれている。ちょうどラジオ局のスタジオのような感じだ。入ってすぐの狭い部屋には大きなコンソールがあり、モニターやマイクや様々な細かいスイッチやダイヤルやボタンやメーターが並んでいる。一方の壁がガラス張りになっていて、隣の部屋が見渡せる。ただ、そっちの部屋は明かりがついていない。ガラスを通して差し込むモニタールームの光が当たっている場所以外は、闇の中に沈んでいる。
 隣室に通じるドアが開いている。操はそこを通って二つ目の広い部屋に入ってみた。
 部屋の真ん中辺りに何かが置いてある。側に行ってみると、それはベッドだった。誰かが寝ているが、暗くて顔がよく見えない。
 操が上半身をかがめて目を近付けたその時、明かりがついた。ベッドに裸で横たわっていたのは、朋輝だった。いや、朋輝がこんな所にいるわけがない。まだ学校だ。とすると、これはトモだ。朋輝のクローンの。
 バタン、と音がした。振り返る操。開いていたはずのドアが閉じている。続いて、鍵を掛けたらしいカチャリという音。
 操はドアに駆け寄った。鍵の掛かる音がハッキリ聞こえた。閉じ込められた、という恐怖に駆られて、操はドアのノブを乱暴にひねり、押し、引いた。
 もちろんドアは開かない。
 ドアの横、ガラス張りの壁を両手でドンドン叩きながら操は叫んだ。
「理英ちゃん、なに? どういうこと!?」
 コンソールの向こうに、理英が腕組みをして立っている。白衣を羽織っているのはいつもの通りだが、その下はねずみ色のツナギではない。黒のストッキング。同じく黒の、レザーのタイトなミニスカート。首もとまでを包み込んだ上着のセンターにはファスナーが走り、大きなリングのついたそれは胸元に着けたアクセサリーのようにも見える。そして縁なしの伊達メガネ。
 これは、十一歳の女の子のファッションではない。トドメに左の目尻にホクロまでつけている。
 理英ちゃんの考えてることって、時々分からない……。
 操は、絶句した。
 おそらくは、理英の尊敬している「誰か」になり切っているのだろうが、ハッキリ言って似合わない(笑)。
 理英がコンソールに手をついて、マイクに口を寄せた。
『ちょーっと手伝って欲しいのよ』
 増幅された理英の声が、天井のスピーカーから降ってくる。
『精液がね、必要なのよ。百ccほど』
「せいえき!? 精液って……男の人のアレ?」
 驚いたのと、分厚いガラスの向こうに聞こえるようにという意識が働いて、ついボリュームが跳ね上がった。
『ちゃんと集音マイクあるんだから、そんな大声出さなくても聞こえるよ、操』
 ガラスの向こうで理英が苦笑する。
 思わず口を両手で覆う操。「精液」などという恥ずかしい言葉を大声で叫んでしまった自分がものすごくはしたなく思えてきて、首筋まで真っ赤になってしまう。
『ちょうどトモくんも起きたみたいだし』
 振り返ると、部屋の中央に置かれたベッドの上でトモが上半身を起こしていた。
『あそこにビーカーあるでしょ。あれ二百ccだから、半分まで入れてね』
「理英ちゃん……」
 半分……いや、四分の三は泣きが入っている操。
『百cc取れるまで出したげないからね★』
 語尾にハートマークをつけながらも、理英はきっぱりと宣言した。
 操は、がっくりうなだれて壁際にずるずると崩れ落ちた。そんなに長い付き合いではないが、理英の性格(この場合は恐ろしさと言うべきか?)はよーく知っている。百cc取れない限り、理英は本当にここから出してくれないだろう。
 やるしか、ないや……。明日学校だし。
 悲壮な決意を固めて立ち上がり、ベッドに向かって歩き出した操の頭上から、理英が冷水を浴びせかけるようなことを言う。
『服、脱いだ方がいいんじゃない? 汚れちゃうよ』
 これは親切で言っているのではない。断じて違う!(笑) 妙に弾んだ声の調子が全てを物語っている。
 操は立ち止まり、我知らず天を仰ぐ。もちろん空は見えず、灰色のコンクリートの天井、そこに取り付けられた照明、スピーカー、集音マイク、そしてテレビカメラ。天井中央と四隅に計五台。操はのろのろと視線を巡らす。周囲の壁にも、目の高さに七台、床上三十センチに四台、全部で十六台。十六の目で見られている。
 ベッドの上から、裸のトモが不安そうに操を見ている。もうどうにでもなれ、という気分で、操は乱暴に服を脱ぎ散らかした。さすがに下着まで脱ぐ必要はないんじゃないかしら、と逡巡して肩越しにちらりと振り返り、そして理英の目を見てしまい、諦める。
 要するに、理英ちゃんは、私に、恥ずかしいコトをさせたいんだ……。
 操は下着も脱ぎ捨てた。もう完全にヤケクソだ。トモの表情が変わった。目がきらきらと輝いている。「裸の女の子→気持ちいいことをしてくれる」程度のことは学習しているらしい。
 トモをベッドのへりに腰掛けさせると、操はだらんと垂れている陰茎を握って刺激してやる。前と違って今度はすぐに勃起した。
 左手にビーカーを持ち、右手で肉茎をしごく。百cc集めるには何回射精させればいいのかな、と考えると手の動きもいきおい事務的になってくる。それでも若い勃起は敏感で、ほどなく最初の絶頂に達した。激しく迸る白濁液も、ビーカーをかぶせるようにして一滴もこぼさずに集めることが出来た。
『はい、次はベッドに上がってトモくんの後ろからしてみようか』
 まるで映画監督気取りの理英の声が降ってくる。操はおとなしく指示に従った。アダルトビデオの撮影現場ってこんな感じなのかな、と操は思い、そしてベッドがなぜ部屋に対して斜めに置かれているのか悟った。テレビカメラの映像のアングルに変化を付けるためだ。
 トモの背後から手を前に回して剛直を握った。まるで自分にオチンチンが生えてそれをしごいているような錯覚を覚える。
 やだ、まるでお兄ちゃんのオナニーを手伝ってるみたい……。
 禁断の遊戯に耽る自分と兄の姿を想像し、体が熱くなる。無意識のうちに、目の前の広い背中に胸の隆起を押し付けている。
 手を動かすと、先端から溢れた名残りが指にからみついてぬちゃぬちゃと卑猥な音を立てる。私がオナニーする時と同じ音……。自分のそこが濡れてくるのが触らなくても分かった。トモの息が荒くなってきた。微かに快楽の呻きを洩らしてもいる。
 お兄ちゃん、気持ちいい……? いっぱい出していいからね、お兄ちゃん……。
 いつしか操は、熱い吐息を吹きかけるようにしてトモに囁いている。
「うッ」
 トモが一際大きく呻いた。体をびくびくと震わせて、白い精を大量に放った。操が慌ててビーカーで受け止める。
 自らが噴き上げた液体にまみれ萎えて力を失った肉茎を、操の手が再び包み込む。優しく、巧みに、いやらしく動き出した。だが、肉茎はぐにゃりとしたままだ。「芯」が戻ってこない。
『手でダメなら、お口でしてあげたら? 操のだーい好きなおしゃぶり攻撃でさ。アソコびちょびちょにしながら、オチンチンぺろぺろ舐めてあげなさい』
 理英の声が下品な響きを帯びてきた。操は顔を真っ赤にしながら、それでも理英の言葉に従う。再びベッドから下りてコンクリートの冷たい床に座り、トモの股間に顔を埋める。
 白い滴をためている先端を、つるりと口に含んだ。ふにゃふにゃした茎が舌の上を転がる。不思議な感触だった。考えてみれば、勃起していない肉茎を咥えたのは初めてだ。
 まとわりついている白い精をちゅるちゅると吸い上げ、口全体をすぼめ、頬を窪ませて強く吸った。まるで体の中から直接精液を吸い出そうとするように。
 執拗にまとわりつく温かい粘膜の感触に、肉茎が力を取り戻し始めた。操の口の中でどくどくと脈打ちながら膨れ上がる。急激に勃起した怒張の先端で喉を突かれた操がむせ返った。涙を滲ませながら口を大きく開けて咥え直す。根元の方に手を添えてしごきながら、唇で胴の部分をやわやわと刺激し、舌で先端をつっつく。娼婦のようなテクニック。
 もう一方の手は、自分の秘裂をまさぐっていた。淫液が溢れかえる柔肉の狭間をぐちゅぐちゅと音を立てて掻き回す。怒張を吸い立てる音と自分を慰める音が重なって耳に届く。
 私、今すごくいやらしいコトしてる……。
 息苦しくなって怒張を吐き出した。快美に呻くトモにシンクロしたように、自分も呼吸が荒くなっている。トモの目が、じっと操を見下ろしている。
 お兄ちゃん、もっと見て。私のいやらしいところ、もっと見て……!
 操は悩ましい喘ぎをこぼしながら怒張の先端を舐め回した。体をくねらせながら肉茎にしがみついてしゃぶり続ける。トモの体がぶるっと震えた。
 操は口の中にぶちまけられた体液を飲み下しかけて、慌ててビーカーに吐き出した。どろりとした白濁液は唾液と混ざり、糸を引いて操の唇から溢れ出た。
 その様子を、理英はガラスの向こうからじっと見ている。
「これで三回目、か」
 理英は、「作業」の進み具合に不満を持っていた。射精するまでの所用時間がだんだん伸びてきているのだ。ここからではよくは分からないが、一回当たりの量も減ってきているようだ。当たり前である。いくらお年頃の男の子とはいえ、これだけ立て続けに責めまくられてはたまったものではない。
「これじゃラチが開かないわね」


 朋輝の携帯電話が鳴った。今は学校からの帰り道だ。見覚えのない番号。誰からだろう、と思いながら通話キーを押す。
 いきなり変な声が聞こえてきた。
「ワ・タ・シ・ハ・ウ・チュ・ウ・ジ・ン・ダ。オ・マ・エ・ノ・イ・モ・ウ・ト・ヲ・ア・ズ・カ・ッ・テ・イ・ル」
 明らかに作っている声だ。どうやら喉を手刀でとんとんやりながら話しているらしい。おまけに、どうしろとも、どこに来いとも言わずに切れてしまった。
 呆気に取られた朋輝だったが、十秒後には立ち直っていた。家に向かって走り出す。
 家に着くと、カバンを玄関に放り込んでまた走り出した。行き先はもちろん……。
「こんなことする奴ぁ一人しかいねえ!」
 TSLである。
 入り口まで来たことは何度かあるが、中に入るのは初めてだ。守衛所で理英の部屋の場所を聞いて、玄関できちんとスリッパに履き替えて、朋輝は宇宙人のアジトに敢然と乗り込んだ。
 理英は部屋にはいなかった。代わりに、貼紙がしてある。
『第二十二実験室に来てねん★ 宇宙人より』


「いらっしゃい、朋輝くん」
 雑多なスイッチ、押しボタン、ランプが並ぶコンソールの前。キャスターと肘掛けのついた回転イスに脚を組んで座っている理英が言った。
「『くん』はやめろっつってんだろ。にしてもなんつーカッコしてんだ、宇宙人。操はどこだ?」
 理英が黙って顎をしゃくる。朋輝はその方向に目をやり、あまりの光景に硬直する。
 十六のモニター画面の中で、十六人の操が唇を犯されている。唾液をまぶされて濡れ光る肉茎が、小さな唇を割って口腔深く潜り込んでいる。何度も、何度も。倦むことのない力強さで。
 男の肉の凶器を口に突っ込まれている操の苦悶の表情が、十六通りのアングルで克明に描き出される。音声付きで。
『むっ……ん、ぐ……んっ……ん……むっ』
 朋輝はガラス壁の向こうを見た。凌辱劇が繰り広げられているのは、ガラス壁のすぐ近くだった。モニターでは操の顔だけがアップになっているので分からなかったが、操は服を着ていなかった。いかにも冷たそうなコンクリートの壁に裸の背をぴったりつけて、床にぺたんと座り込んでいる。口許から溢れた涎が顎の先に溜まって、男のものが操の唇に突っ込まれるたびに照明を反射して光る。目を凝らせばもう一筋、白濁した粘液が伝い落ちた跡がある。頬から首筋、そして白い双乳の谷間へと、男の欲望の体液の痕跡。
 男性器に蹂躙される女の唇。雄の目を引きつけてやまないひどくエロティックなオブジェから無理矢理視線を引き剥がした朋輝は、信じられないものを見る。操を――妹を凌辱しているのは、あれは……俺じゃないか!?
 なんで俺があそこにいるんだ? なんで俺が操にあんなこと……。妹なのに、妹だから……。俺と操が……。操は妹……妹が、俺の、俺を……。
 朋輝はかつてないほど激しく勃起した。学生ズボンの前を突き破らんばかりに。
「あれはね、朋輝くんのクローンよ。言わばもう一人の朋輝くん。操には、ちょっと実験のお手伝いをしてもらってるの」
「お……手伝い、だと?」
 興奮のあまり、声が掠れている。
「精液が必要なのよ。男の子のオチンチンから出るアレ。百ccほどね」
 朋輝は、ガラスの向こうを何かに憑かれたような目で見つめている。
 カチャリ、と音がした。ドアのロックが解除された音。
「この調子だと時間かかってしょうがないからさ、手伝ってあげてよ」



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この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは関係ありません。


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