三 、 「 餌 」





 飢えが、二人の牝奴隷の体を、そして心をも蝕んでいた。
 さんざん嬲られ凌辱し尽くされた末に、ほんの僅かな食べ物が与えられるだけ―――その繰り返しなのだ。十分なエネルギーが摂取できるはずがない。水洗トイレがあるので水だけは手に入るが、もちろん水ではカロリーにはならない。マイナスに傾いたエネルギー収支はじわじわとその傾斜を増し、体力はもちろん、反抗する気力をも奪っていた。
 最初の数日間は、何とか脱出できないかと必死に考えた。しかし、この恐ろしく堅固な地下牢から脱出できる可能性は、限りなくゼロに近い。この檻の中で、死ぬまであの男達に嬲り尽くされるしかないのか……? 次第に、そんな悲壮な思いが頭をよぎることが多くなった。気も狂わんばかりの凌辱の日々に、二人は時間の感覚さえ失いかけていた。
 カレンダーも時計もない。一体、あの夜から何日経ったのか。今は昼なのか、夜なのか。知る術は全くなかった。躯が求めるままに、眠くなったら眠り、目が覚めたら起きる。そして、そんな二人の生活サイクルとは全く無関係に男達がやってきて、凌辱の限りを尽くして帰ってゆく。
 犯され、疲れ果てて眠る。ただその繰り返し。いくら待っても、状況は全く変わらない。記憶したくもない経験の繰り返し。その延長上にしかない「今」。昨日と今日を区別するものは何一つない。そんな二人にとって、時間など既に何の意味もなかった。過去も未来も、存在しないに等しかった。
 時の流れのない地下牢で、凌辱の儀式だけがまたひとつ積み重ねられてゆく。
 ルネが、コンクリートの床の上で四つん這いになって犯されている。
 男はルネに後ろから覆いかぶさるようにして腰を使いながら、胸の隆起に手を伸ばしている。握るように双乳を揉みしだき、小ぶりだが手応えのある弾力を楽しみながら、頂上のピンクの蕾を指でつまむ。
「あんッ……」
 敏感な蕾を責められると電流のような快感が走り、声が出てしまうのを抑えられない。ルネは、まるで男の愛撫から逃れようとするかのように躯をくねらせる。
 認めたくないが、体が凌辱に慣れてしまったことは間違いなかった。最初は嫌悪感や恐怖や屈辱しか感じなかったが、次第に甘美な愉悦を覚えるようになってきていた。「また犯される」と思っただけで秘芯が濡れそぼり、力ずくで無理矢理貫かれているにもかかわらず、口からは甘い喘ぎを洩らしてしまう。肉茎を埋め込まれ精液を注がれる、この冷たいコンクリートの密閉空間が、二人にとっての「日常空間」になりつつある。
 自尊心を守るための強い被害者意識。それが次第に被虐願望というおぞましい感情に変質していくのを感じながら、ルネは必死に空しい抵抗を続ける。
 ルネを獣の姿勢で貫いていた男が呻き、秘肉の奥深くで射精した。子宮目がけて熱い体液をたっぷりと吐き出すと、腰を引いて愛液にまみれた肉茎を抜いた。ルネの体が前方に崩れ落ちた。
 男は立ち上がって戸棚のところへ行き、プラスチックの皿を持って戻ってくるとルネの目の前の床に置いた。
「これに、ミルク絞ってくれよ」
 意味が分からずにきょとんとしているルネに、男は重ねて言った。
「俺が今お前の中に出したミルクを、ここに絞れって言ってんだよ」
 ルネは、自分の耳を疑った。怯えた目で男の方を見る。
「さっさとやれ。やらないと、餌はなしだ」
 最大の弱みを握られている以上、素直に従うしかない。頭ではそう分かっていても、この辱めに自ら身を任せるのは耐え難い屈辱だった。ルネは和式便器にしゃがむような格好で皿を跨いだ。膣口から溢れ出した精液が皿にポタポタと落ちた。ルネは、下腹部に力を込めた。しかし絶頂の余韻でうまく力が入らず、膣内の精液を絞り出すことができない。
「指を突っ込んで掻き出せ」
 更に残酷な指示を与えられたルネは、悔し涙を滲ませながら人差し指と中指を揃え、自らの陰裂にズブズブと沈めてゆく。一杯に突っ込んだところで指先を曲げて引き抜くと、白いどろりとした塊がまとわりついてきて皿にべちゃっと落ちた。
 うつむいて肩を震わせているルネを、更に冷酷な命令が襲った。
「皿を舐めてキレイにしろ」
 床に置かれた皿を四つん這いになって舐め、男の精液と自分の愛液が混じり合った粘液を、涙を流しながら飲み下していく。そんな牝奴隷の様子を満足げに見下ろしながら、男が言った。
「ミルクは栄養満点だからな。特に蛋白質がな。残さずに飲めよ」
 惨めに床に這いつくばり、一心不乱に皿に舌を這わせる。やがて、すっかりキレイになった皿が取り上げられ、代わりに野菜サラダの入ったボウルがルネの前に置かれた。慌てて手を伸ばすが、髪を掴まれて制止された。
「おっと、まだだ。その前にもうひとがんばりしな」
 男は髪を引っ張ってルネの上半身を起こして立ち膝の姿勢にさせると、萎えかかった肉塊をルネの唇に押しつけた。ついさっきまでルネの中に入っていたそれは、男と女の体液で濡れそぼっていた。ルネがおずおずと唇を開くと、半立ちの肉茎がぬるりと滑り込んできた。
「おらっ、もっと舌使え!」
 男が腰を動かしながら言う。ルネは心持ち上気した顔で、催眠術にでもかかったように男の言葉に従った。言われるままに、口の中を一杯に埋め尽くしている肉塊の先端を舌でつつき、裏筋を舐め上げる。まとわりついている精液と淫蜜をしゃぶり取るように、全体に執拗に舌を這わせる。萎えかけていた肉茎が、ルネの口の中で再び大きく硬くなってきた。
 ルネは、一旦唇を肉茎から離した。熱い粘膜から解放された怒張は天を衝くような急角度でそそり立ち、唾液で濡れ光り、熱くみなぎっていた。ルネはすっかり元の硬さを取り戻した肉の凶器にうっとりと舌を絡ませ、再び深々と咥え込んだ。上気した頬を窪ませ、ジュプ、ジュプと卑猥な音を立てながら吸い、しゃぶり立てる。既に、自分が何をしているのか分からなくなっていた。
「すげえな。俺達にもしてくれよ」
 立ち膝で男のものに一心に奉仕しているルネの前に、更に二人の男が立った。二人が揃っていきり立った男根を突き出すと、ルネはそれを両手に一本ずつ握った。そして、前後にしごき始める。最初は愛おしげにゆっくりと、そして次第に早く激しく。
 筋の浮き出た野太い肉茎に白く細い指が絡み、擦り、しごき立てる。ルネは、熱に浮かされたように両手と頭を動かした。
 口の中と両手で、三本の肉茎がびくびくと跳ねた。
 また、顔にかけられる……。あの白濁液で顔中を汚される……。ルネは覚悟して目を閉じた。ルネは、気付いていなかった。男の欲望の体液を、あの熱い白濁液を顔一杯にぶちまけられることを心のどこかで望むようになっている自分に。
 神経を張り詰めさせて待ち受けていた熱い一撃は、やって来なかった。ルネは、恐る恐る目を開けた。口の中にも手の中にも、肉茎はなかった。
 男達は、おびただしい量の精液をボウルの中の野菜サラダの上にぶちまけていた。亀頭から白濁した粘液が二度、三度とほとばしり、サラダにたっぷりとかかった。
「ドレッシングをかけてやったぜ。食え」
 目の前に突き出されたボウルからは、むせ返るような栗の花の匂いが立ち上っていた。だが、生理的欲求には勝てなかった。激しい空腹を癒すためには、他に方法はない。男達の手の内を知りながら、どうすることも出来ない我が身の境遇を呪った。
 ルネは目をつぶると、震える手で精液まみれの野菜サラダを口に入れた。


 一方リザは、壁の方を向いた姿勢で両手と壁の金具を手錠でつながれ、立ったまま後ろから肉茎で串刺しにされていた。腰を掴まれて尻を後ろに突き出した恥ずかしい格好は、まるで自分から進んで男に貫かれているようでこの上なく屈辱的だった。リザが身をよじるたびに、手錠がガチャガチャと音を立てる。
「あんッ! うふッ……はんッ! ああッ!……いい……」
 リザは、冷たいコンクリートの壁に顔を押しつけながら淫らな喘ぎを洩らし続ける。
 入れて……もっと深く……。もっと奥まで入れてェ……!
 いつの間にか、少しずつだが自分で腰を振り始めていた。より深い結合を求めて、後ろの男の動きのリズムに合わせて尻を後ろに突き出す。不自然な姿勢のファックでリザの中に被虐の悦びが芽生え、確実に広がり始めていた。
 男が大きくのけぞるようにして一際強く腰を叩き込み、激しく射精した。熱い奔流を子宮に注ぎ込まれ、リザも一気に昇り詰める。オルガスムスの大波が去ると、全身から力が抜けた。リザは首をがっくりと垂れて、白い裸体をぐったりと弛緩させた。手首の手錠に体重が掛かり、紅潮した柔肌に食い込んでいる。
 リザの中から肉茎を引き抜いて一旦向こうに行った男が、また戻って来た。何かを持って来たようだが、リザは壁の方を向いて磔にされているため、よく見えない。
 男は、男と女の体液で汚れた媚肉の割れ目にそれを押し当て、一気に突き入れた。
 リザは、悲鳴を上げてのけぞった。エクスタシー直後の女体には、あまりにも酷な刺激だった。ズブズブと出し入れされる度に腰がくねり、訳の分からない叫びが洩れるのを止めようがなかった。
 リザをひとしきり嬲ると、男は突っ込んだものをゆっくりと抜き取り、それをリザの目の前に突きつけた。
 それは、極太のウインナーソーセージだった。精液と淫蜜が混じり合った白い粘液がたっぷりと絡みつき、糸を引いて滴り落ちている。
「ほれ、餌だ」
 男は、欲望の体液でまぶされたソーセージをリザの口に有無を言わさずねじ込んだ。異様な味とヌルヌルした舌触りが口一杯に広がった。吐き出したい衝動に駆られた。だが、空腹を癒したいという欲求の方が強かった。リザは、苦い粘液でまぶされたソーセージを咀嚼し、飲み込んだ。
 深い満足と、ズタズタになった自尊心が残った。


 男は手錠を外すと、打ちひしがれているリザを引きずるようにしてルネの側へ連れていった。
 男達は疲れを知らなかった。ルネとリザは四つん這いにされ、後ろから貫かれ、口にも突っ込まれた。一人で二本の肉茎に交互に口で奉仕させられた。その逆に、一本の肉茎に二人で舌を這わせた。数分間の奉仕を強制された後、二人の牝奴隷は顔と口に欲望の体液をどっぷりと吐き出されていた。
 微かに鳴咽を洩らしながら床に横たわる生贄達に、男達はまたも容赦のない命令を下した。
「お互いの顔を舐め合ってキレイにしろ」
「…………」
「どうした。早くやれ」
「……もういやッ!」
 たまらずに叫んだのは、ルネだった。
「もういや……許して……」
「お前、何か勘違いしてるんじゃねえか?」
 男の一人が、ルネの髪をわし掴みにして上を向かせた。
「てめえら家畜に、口答えする権利なんかねえんだよ。ガタガタぬかすと、あそこで腹ワタ全部抜いて剥製にしちまうぞ!」
 男は地下牢の奥、鉄格子の向こうの「手術室」を顎で指し示しながらすごんだ。
 がっくりとうなだれたルネに、別の男が猫撫で声で話しかける。
「言う通りにしたら、いいものをやるぜ」
 やり取りを聞いていたリザが、無言で身を起こした。ルネを抱き起こして床に座らせ、向かい合って自分も座るとルネの肩に手をかけた。そしてルネの顔に唇を寄せ、白濁液にまみれた頬をそっと舐めた。
「リザさん……」
 ルネは、急にリザへの愛しさがこみ上げてくるのを感じた。自分も舌を出し、愛撫するようにリザの頬を舐めた。ピチャ、ペチャという湿った音が地下牢に響き始めた。
「いいぞ、その調子だ。もっと気分を出してやるんだ」
 男の一人が、興奮を隠せない様子で言った。
 二人はお互いの顔中を舐め回し、べっとりと付着した精液を舌ですくい取り、飲み込んだ。やがて、ルネの舌がリザの唇に触れた。男の体液で汚された柔らかい唇をたっぷりと舐め回して清めると、ルネはリザと唇を合わせた。
「んッ……」
 リザが微かに身じろぎした。ルネの唇の柔らかい感触。躯の奥底から、甘い痺れが立ち昇ってきた。リザはルネの背中に腕を回し、唇を強く押しつけた。二人は妖しい衝動に捉えられ、同性の甘く柔らかい唇を欲望の赴くままに貪り合った。やがて、リザの舌がルネの唇を割って口の中に滑り込んだ。ルネの舌を絡め取り、歯茎や粘膜を舐め回す。
 リザの腕の中に抱きすくめられて舌で口の中をまさぐられながら、ルネは二人の体の間に手を差し入れ、リザの瑞々しい、張りのある肌に指を滑らせた。胸の隆起の裾野から、頂上の蕾へ向かって円を描きながら上ってゆく。ルネの指先が敏感な蕾に触れると、リザの体はびくっと震えた。
 ルネが双乳を掌で包み込むようにして愛撫し始めると、リザはたまらなくなって唇を離し、切ない溜め息を洩らした。ルネは更に、ツンととがってきたリザの乳首に唇で愛撫を加え、舌で転がした。
「次は、あそこに口を着けてザーメンを吸い出すんだ」
 二人は、床の上でシックス・ナインの体勢になった。ためらうことなく相手の媚肉に唇を押しつけ、肉襞の中にズブズブと舌を潜り込ませて精液を吸い出し、喉を鳴らして飲んだ。濡れた媚肉を舐め回すだけでは飽き足らず、割れ目の上の小さな肉の突起にも舌を這わせ、ねぶり、包皮を剥いて刺激した。
「いいッ……そこ……もっと強く吸って……」
「あんッ! すごい……すごくいいの! もっと舐めてェ」
 二人の牝奴隷は、互いを愛撫しながらどこまでも昇り詰めてゆく。既に男達のことなど意識から消え失せていた。物凄い快楽の火花がスパークした。二人は凄絶な喘ぎを絞り出し、果てた。
「よし、約束通りいいものをやろう」
 淫靡な見世物をたっぷりと堪能した男達は、注射器を何本も取り出し始めた。そして、床にぐったりと横たわっている二人の前に四本ずつ並べた。
「四本のうち、一本は当たりで栄養剤が入ってる。だが、あとの三本にはこいつが入ってる」
 男が見せたのは、あの恐ろしい「PRETTY SUCCUBUS」のアンプルだった。悪魔のロシアンルーレットだ。
「打つも打たないもお前らの勝手だ。ま、打つ時は神様にでも祈って選ぶんだな」
 男達は二人を元通りに鎖につなぐと、地下牢にカギを掛けて去っていった。
 恐ろしい餌を与えられた二人の牝奴隷は、絶頂の余韻の中でいつまでもじっと床にうずくまっていた。




このページのトップに戻る   二、「檻」 <   > 四、「牝」



この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは関係ありません。